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現在のレコードのカッティング・音質の課題と展望(中古レコ屋おやじ的雑感)〜 アナログマスターテープ、ヴァリュアブル・ピッチ、先行ヘッド

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✼  ✼  ✼     14th  Apr,  2024    ✼  ✼  ✼








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※ 音の聴こえ方や好みは聴く人によって異なります。音質についてはあくまでも筆者の耳と機材による主観です。






50年代ジャズや70年代ロックの名盤が次々とリマスターされて新品で買える時代になりました。









これらを買った方々がSNSなどで「低音がズドンと来て高域の透明感や伸びが増した」などと書かれている。









一方で「なんか薄っぺらい」「体温が伝わってこない」「CDとあまり違わない」「感動しない」などの声も少なくありません。









これは現代のレコードの製造工程上の問題が関係していると思われます。











簡単に言ってしまえば、












『現在製造されるレコードはほぼ全て一度デジタル処理が施されている』





ということ。







デジタルを介したリマスタリングの音が良いとか悪いとかの問題ではありません。



かつてのアナログ音源のデジタル化のメリットは




保存・複製・加工の容易さがあります。







加工、すなわちカッティング(時のマスタリング)に際して今日的な色をつけてみたくなるのも人情。



また、


『待望の再リリース! 以前と同じ音です』では売れないから、



『待望の再リリース! 鮮烈・迫力の最新リマスタリング! 従来よく聞こえなかった鈴の音が聞こえる! (←笑) 』となりがち。










高域・低域を誇張するのが一番カンタンに脚色できる。



我々だってアンプのトーンコントロールでひょいひょいとTREBLE上げたりBASS上げたりしてなんとなく気持ちよくなることありますよね。








前にも書きましたがあらゆる機械は能力の上限値があってどんなカッティングヘッドでも1秒間に刻める情報量は限りがある。高域低域を誇張すれば相対的に中域に割ける情報量が減るわけです。




古い(1960・70年代の)アナログレコードは中域の厚み(情報量)が特徴でした。



CDやデジタル音楽配信の時代にアナログ・レコードをあえて聴こうという動機は「アナログらしい音」で聴きたいということでしょう。







※ 再生時にレコード針が1cm進む間にピックアップできる情報量に性能差・限界があるようにどんなに優れたカッティング・ヘッドにも1cmの間に記録できる情報の量には限りがある。機器が進歩しより広い帯域にカット可能になれば製作側は最高域や最低域まで刻んでみたくなるもの。そうして高域や低域に多くの情報量を割くと相対的に中域に費やす情報量が減るのだそうです。
人間の耳は人の声など自然界にもっとも多様に存在する中域(の倍音成分)に最も敏感にできていて中域のわずかな音質の劣化で感動の度合いが大きく減ずるものだと私は思っています。

ワイドレンジ化にはデメリットもあるということです。

 













図にしてみました。













※ 年代はおおよそのものです。機械機材は一度にすべて刷新されるわけではなく寿命を迎えた旧機材から新機材に逐次差し替えられていくからです









こんな図は普通決して世には出ません。





雑誌「記事」やネット検索上位「記事」はスポンサー(=レコード会社)の「広告」だから。

(雑誌は広告だけが広告ではなく本文も広告性を持つ、ネットは検索上位になるには多額のSEO費がかかるため上位記事は基本広告性が高い)






雑誌で語る評論家も自分の書いた記事でレコードの売上が増えることで執筆料が賄われるのでレコード会社の不利益になるようなこと(=レコードなのにデジタル処理を経ていること)は決して書かないのです。






(※ ただ雑誌など気をつけて見ているとたまにポロッと書いてあったりする↓・笑)








(※ 一旦デジタル化と言っても決してCDレベルの音16bit/44.1kHzになるわけではありません。CDよりも記録容量や解像度の点で数倍優位な機材で処理されます)
















もう一度上図を見てください。












キーワードは「先行ヘッド」。。。










親指の先程の小さなパーツ、










レコードの音溝は「低い音・大きな音」ほど「太く深く」なります。












収録時間を長く稼ぐには溝の間隔は全体的になるべく狭くしたいが音溝が広い部分が連続すると音溝同士がくっついてしまう。










そこで低域が連続する箇所では間隔を広くとるなど「音溝同士の間隔(ピッチ)」を音溝1本ごとに変えるのです(Variable pitch)。

(併せてDepth Control という溝の深さを加減する機構もある)











従来のカッティング用のテープレコーダーには本来のカッティングする音を採取する主ヘッド(Reproducing head)の前に「先行ヘッド(Variable pitch head)」と呼ばれるものがあり採取する音の1.1秒前(←機種による)の音を読んでカッティングの際に信号の大きさによってピッチを1周毎に調整する機構を備えていました。












ところが現在は健常な状態の先行ヘッド(とヴァリアブルピッチ機構)を備えた従来のテープレコーダーがほぼ失われてしまっているためいったん採取した音をデジタル処理してピッチ幅を変えるしか方法がなくなってしまったのです。











山下達郎氏もこのことについてはラジオなどでも度々ふれ、自身のアナログテープ音源時代の作品の再発には長く首を縦に振らなかったのです。














ちなみに現在の国内の主なカッティング現場では業務用テープレコーダー最大手スイスのStuder社のA-80(初号機1970年  有名どころだとピンクフロイド『狂気』の録音などに使われた)という機種が使われていますが、現在は先行ヘッド搭載のカッティング用A-80はほとんど使われていません。






(※ 一部音源で使用しているだけなのに「当社はアナログマスターテープからカッティンしている」とそれがスタンダードだとも取れるような言い方が見られます。先行ヘッド付きテレコが使えても音源であるマスターテープの使用が許可されるかどうかの問題で限界があります。)













通常型のA-80
(録音ヘッドと再生ヘッドが並ぶ  左端に消去ヘッド)







  カッティング用A-80  
イタリアA社所有機
(録音ヘッド消去ヘッドは無く先行ヘッドが見られる
テープは屈曲して走らせ先行の時間を作っている)
















まあ、個々の作品のマスターテープの保管履歴(経過年数・保管環境・使用履歴)などにもよりますので作品によって変わってくるでしょうから古い作品ほどオリジナル盤にはなかなか勝てないでしょうが (古いカッティング機材にしか出せない味わいもありますし)









※ マスターテープの劣化という言葉を時折目にします。


この劣化には「2通りの意味」があります。


一つは『音質的な劣化』(減磁・転写等)ですがこれは、私が45年も前に買って真夏に車の中にずっと入れっぱなしだったりもしたミュージック・カセットですら(お客様にも聴いてもらうこともありますが)驚くほど良い音で鳴るものがあるのに1/2インチも幅があり市販品より厚手の(= 転写が起こりにい)テープに録られたものがどれほど音質が落ちるのか疑問です。


マスターテープが劣化して使えないという場合は、もう一つの『物質的な劣化』を指す場合が主だと思います。私が所持する50本あまりのオープン・リール・テープはカセットテープより磁性体が厚く剥離剥落が容易に起きるので慎重に扱わなければなりません。

いずれにしても70年代までのアナログ・マスターテープ音源は使用が難しい状況なのでしょう。








私が60,70,80年代製のレコードを聴く魅力は中域の深みや厚みを聴くということ、加えて高域低域が鮮明なら尚善し。













はたしてレコード製造の未来はどうなるのでしょうか ???











※  当記事は「アナログテープ音源時代」の作品の近年再発盤について書かれたもので録音からデジタルの作品について述べたものではありません。
※ 感動や音の聴こえ方・好みは主観であって人によって異なります。また聴取環境(機器・音量等)によっても異なります。デジタル盤もその方にとって素晴らしい音で鳴らすことはもちろん可能です。
※ また、一般レコードファンが購入する量産レコードの話であって受注制作盤のような小規模制作現場の話ではありません。











【 参考資料 】




アナログ全盛時代のカッティング現場についてはこちら ↓











※  資料①はビクターの技師さんが書かれたものだが、78年時点で「真空管(カッティング)アンプもいまだに使われている」とあるのは注目。私も以前「70年代中頃まで特にビクター盤には真空管でカッティングされたと思える盤がある」とブログにも書いていたが図星だった。ビクターの(たぶんベテラン)技師は遅くまで真空管機材にこだわった頑固さが想像できて楽しい。スリーブラインドマイス初回盤もビクター系人脈の技師が関わっているので真空管の音がするように思うのだがどこかにはっきり書いてないだろうか















【 近年の国内レコード制作会社の使用機材 】



※ カッティングレース(Cutting Lathe)= 再生時のレコードプレーヤーに当たるもの。駆動モーター、ターンテーブル、ヘッド移動レール などからなる

※ カッティングヘッド(Cutting Head)= 再生時のカートリッジ・レコード針に当たる

※ カッティングアンプ(Electronic Package)=パワーアンプ、コントロール部、イコライザーなどからなる






業務用の本格的なカッティングマシンはCD時代を迎えた1984年を最後に製造が終わってしまいました。したがって現在も世界中のレコード製造現場ではそれ以前の機材(独ノイマン社製、米スカーリー社製、米ウェストレックス社製など)を修理・メンテナンスしながら使用している状況です。


(※ 近年でもドイツのVinyl Recorder社、オーストラリアのSillitoe Audio Technology社など小型簡易なカッティングマシンは各種製造されています。)






東洋化成

レース ノイマンVMS70  VMS80
ヘッド ノイマンSX74
アンプ ノイマンSAL74B




ソニーミュージックエンタテイメント社

レース ノイマン VMS70 
ヘッド   ノイマン SX74 
アンプ ノイマン SAL74




ミキサーズ・ラボ社

テレコ スチューダーA80
レース ノイマン VMS80
ヘッド ノイマン SX74
アンプ ノイマンSAL74B 





日本コロムビア社

テレコ スチューダーA80
レース ノイマンVMS70
ヘッド ノイマンSX74
アンプ ノイマンSAL74





※ ノイマン社型番の70や74は年式を表しています


※  SX74ヘッドの前はSX68だったがレコードの音はSX74導入後にガラッと変わる。70年代前半の盤と後半の盤の音の違い(特にノイマンが主流だった欧州盤や日本盤)は皆さんも感じたことがお有りではないでしょうか。(ちなみに私は70年代前半までのアナログサウンド(SX68 & 真空管アンプVMS66)がより好みなんですが、、海外で和ジャズや和サイケなど70年代前半作品初版が人気(価格暴騰)なのは状態が綺麗だからだけじゃなくここをちゃんと聴けているからだと思うのよな、、)








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レコードのカッティングと音の違いについて思うこと。サキコロ、RVG、倍音、ノイマン、リマスター・・・

 

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✼  ✼  ✼      27th  Feb,  2023    ✼  ✼  ✼







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『風街ろまん』


『リボルバー』


『サキソフォン・コロッサス』





1971年、1966年、1957年発売の名盤






これら1950年代・60年代・70年代に録音発表された名作は世界中で何度も再版(再発売)されています。








たとえば『風街ろまん』ならこれまでに6回アナログ・レコードで発売されています。





1971年 URC  URG-4009 =初回盤

1975年 URC/エレック  URG-4009

1976年 URC  UX-8005

1980年 URC/SMS  SM20-4127

1996年 Vivid  VSLP-4007

2017年 ポニーキャニオン PCJA-00066






『サキソフォン・コロッサス』になるとこれら製造年代(= ” 産年 ” とします。)の違いだけでなく、本家本元のアメリカ盤以外に日・英・仏・独・蘭・伊・西・デンマーク・ニュージーランド・南アフリカ・アルゼンチン・韓国の計13カ国で過去にアナログ発売されていて、" 産地 " の違いも加わってきます。








そして世界のあちらこちらで再発売されるたびに「音が違う」わけです。







『風街ろまん』も71年盤、80年盤、17年盤の3枚なら入門用のオーディオ機器でもはっきりと違いが分かるでしょう。












➽ レコードは原初のマスターテープに録音された磁気信号を、版元となる金型に物理的なギザギザの山に刻み込んで(=カッティング)プレス製造されます。





カッティングは機械に任せておけば自動的にマスターテープと同じ音に仕上がるというものではなく、熟達の職人(カッティング技師)がさまざまな調整をして(=マスタリング)ようやくできるものです。





そしてこのカッティングは再発売(再生産)の度に行われます。(再生産に備えて長期保管されるのは原則マスターテープで金型の保管は長くて数年程度であるため。)










カッティングが違えば出来上がる音は必ず違います。


















➽ 私はこの「違い」を生み出す原因は




カッティングの  「 ①技量 ・ ②機器 ・ ③理念 」




だと思っています。










① 技量とは文字通り担当カッティング技師の腕(耳、感性、その日の体調、モティベーションなども含まれるでしょう)。カッティングはまさしく職人技です。




たとえばレコード全盛の1970年代日本の大手各レコード会社は1ヶ月に300タイトル以上のレコードを発売していましたからカッティング技師も各社10数人はいたといいます。50代のベテラン技師から40代、30代、そして20代の駆け出しまで会社組織ですから技術伝承の意味でも各世代の技師がいたと思います。当然技量に差がある。またベテラン技師でも追い求める理想の音の方向性が違ったり、クラシックが得意な技師、ロックが得意な技師など個性もあったでしょう。






私は「初回盤」の音が再発盤より良いと思えるものが多いのは、腕のある技師が高いモティベーションで入念にカットしたというのが一つの大きな理由だと思います。再発盤になると若手に任されたり初回に比べモティベーションが落ちたりはある程度起こりうるでしょう。







(※ ネット上などでレコードは再発売の度にマスターテープが劣化しているから音質が落ちると音質差の原因を一元的短絡的に書いてあるものはサイト全体を疑ったほうがいい。日頃お客さんから問われ冗談に「テープの劣化もお風呂でおしっこするぐらいは影響があるがカッティングの巧拙はお風呂にバケツでペンキを流し込むぐらい音を変えてしまう」と答えてますが・笑)
















② 機器とはカッティングマシン(再生するときのカートリッジレコード針にあたるカッティングヘッド、プレーヤーにあたるカッティング・レース Lathe、そしてカッティング・アンプなど)のこと。音色に関して言うならば①技量よりこちらの方がはるかに影響が大きく近年盤で音がイマイチな場合にカッティング技師のせいにするのは可哀想と思うほどです。





これらが欧州系(ノイマン、オルトフォン等)か、米国系(ウエストレックス、スカーリー、フェアチャイルド等)か、またその機器の製造年代(ひいては真空管時代かトランジスタか)によって音色は全然違うわけです。














真空管カッティングアンプ Westrex RA-1574B (1960年代)













※ 一般的に米ウエストレックス系は乾いた明快な音でステレオ的音域の広がり・力強さの表現を得意としロック・ジャズなどに向き、一方西独ノイマン系は深み・潤いがありデリカシーや重厚さを特徴としてクラシックに向いているとされます。



(アメリカでノイマンが使われ始めるのは70年代後半からと読んだことがあります。つまりそれ以前は全て米製機材と言うことです。また欧州でウェストレックスは今でもほとんど使われないとも読んだことがあります。日本各社では60年代から両方採用されましたが70年代を通じてノイマンが主流だったようです。)




初回発売から1年後に同じ技師が同じ理念(感性)でカットした(つまりマトsuffixが-1から-2になった)としても、カットした日のカッティングアンプ、カッティングヘッド、イコライザー、コンプレッサー、リミッター、ラッカー盤の組成、旋盤等の全てにおいてエージングやその日の調子、摩耗具合など100%同じではないため必ず音は違うわけです。








また真空管機器で再生する音がトランジスタ機器で再生する音と違いがあるように真空管機器でカッティングされたレコードの音は違う性質が感じられます。一般に柔らかい音がすると言われがちですがこれは人の声、弦楽器、管楽器など中域の倍音成分が豊かに織りなされて自然界に近い音がするためであって柔らかいという単語では表現しきれていないと私は思います。








Blue Note BLP5035 Sal Salvador Quintet/Quartet
Fairchildのレース、Grampianのカッター使用とある















ブルーノートの国内盤だと東芝盤(BLP規格・BN/BNST規格)とキング盤(GXK規格・GXF規格)のようにシリーズとして音質に違いがあるものは技量(技師)と言うよりは機器の違いと考えるのが腑に落ちます。(東芝BN規格盤はウエストレックス3D/MK2と明示、キング盤はノイマンのSX68ヘッドだろうと感じます。)










あと、機器についてはメーカー・型式以外にも調子(ヘッドの摩耗具合、アンプ類のエージング等)機器個体の状態も非常に影響が大きいだろうと思います。




海外からピンク・フロイドの待望の新作のマスターテープが届く。おそらく社内一番の腕のいい技師が一番調子のいい機器で入念にカットする。これも初回盤の音が優れる場合が多い理由足りうるでしょう。










③ 理念とは、市場で成功する(=売れる)製品としてどんな音に仕上げるかという方針。




レコード会社は、その時代の自国のユーザー(聴き手)の聴取環境や再生機器を念頭に置いてレコードの音を作ったでしょう。

例えば日本なら60年代のフロア型スピーカーで居間で聴いていた時代、70年代コンポーネント・オーディオがブームになった時代、80年代に8畳間で卓上コンポで聴いた時代、現代のようにヘッドフォンで聴く人も多い時代ではレコードの音は違っていると感じます。スタジオモニターSPでのチェックだけでなくユーザーの聴取環境や機器は当然考慮されたでしょう。





また、同じイーグルスの『ホテル・カリフォルニア』でもアメリカの居住環境でアメリカ製のオーディオで再生するのと日本の木造住居で日本製のオーディオで再生するのとでは全く同じ音にカッティングするのが最善とは必ずしも言えないでしょう。そのあたりも技師個人ではなく会社(カッティング・チーム)として話し合って音決めがされたのではないかと想像できます。







※ 現代ではユーザー側が再生する機材の一般的特徴(小型コンポ・小型スピーカーで6〜8畳間で聴く、スピーカーユニットの素材、イヤホン・ヘッドホンで聴く等)に合わせて最良の再生音となるよう音楽ソフトを作るためどうしてもドンシャリ傾向になりがちだと思います。





60年代の居間に鎮座した家具調ステレオではゆったり落ち着いた音色 


70年代オーディオブームのシステムコンポーネントではオーディオ特性を重視した音 


80年代の勉強部屋サイズのミニコンポでは小音量でも音粒が際立つような音



と聴く装置・環境が変遷するのに合わせて当然にレコードの音も違って聴こえます。








【資料1】日本音響学会誌1978年5月「最近のレコード技術(製盤技術)」





【資料2】日本音響学会誌1982年1月「最近のレコードカッティング技術」

※ 東芝EMIでは音楽の種類によっては70年代後半でも真空管機材を使用しているとあるのは注目に値する













➽ 以下は当店ブログ、しばらく前の記事です。(一部改稿)









『サキコロ』のUSモノラル金ラベル盤が入荷したのでたまたま手元にあった盤と聴き比べてみました。
















➽ 比較した4枚はプレスの古い順に、





NYCフラットのオリジナル盤
(米 1957年  PRLP7079)


モノラル金ラベル盤
(米 1964年  PR7326)


ビクターSMJX規格盤
(日 1970年  SMJX-10039M)


ビクターSMJ規格盤
(日 1976年  SMJ-6501M)




全てモノラル盤、ちょうど約6年おきぐらいの時期の盤です。







➽ 入荷した64年モノラル金ラベル盤は「手書きRVG」入り、ヴァン・ゲルダー師はサキコロのモノラル盤は初発の1957年に一度しかカッティングしたことがありません。



この64年金ラベル盤は、保管されていた初発時のメタルマザー(から起こし直したスタンパー)でプレスされたものだということです。




※マトリクス筆跡や刻印が同じだと「同一スタンパーだ」と言うことがありますが、スタンパーは音溝も凸で保管には適さず、数千枚プレスすると廃棄される消耗品なので、むしろ「同一メタルマザー」です。レコードを後年に再発売(再生産)するために保管されているものはメタルマザー(音溝は凹)と元々のマスターテープです。






(カッティングが同一なので音はオリジナルと同じか、というとそうはいかないのがアナログレコードの世界の深いところ。微妙に違います。なぜ音が違うかはまた別の機会にいたしましょう。)







➽ 今回4枚を聴いてザックリと感じたのは、57年オリジナル盤は、腹にズドンと来るべきはズドンと、深く響くべき音は深く、黄金に輝くべき音は輝いて、奏者の体温や息遣いを感じるべきところはそれらがちゃんと感じられる音で鳴っているということでした。端的に言うと特に中域の倍音成分が実に豊かに記録されている。 





64年金ラベルは、ごく微妙にですがそれらが全て均等に小じんまりと聴こえました。均等になのでバランスは崩れていません。オリジナル盤の直後に聴かなければ大きな差異は感じられないのかもしれません。







近年の再発盤では多くは「現代的な音にリマスター」されていきます。(当たり前ですが旧作なので音質の変化(← ”音質の向上”と謳われる)が如実でなければセールスにつながらないわけです。「前と同じ音です!」では買う気は起こらない。)





例えば、ハイエンド、ローエンドを上げトップシンバルのシャキーーーンという響きの伸びや透明感、ウッドベースやバスドラの空気を震わすかのような重量感が表現されるように。(悪く言うと「ドンシャリ」)また、従来よく聴こえなかった鈴の音のようなバックでかすかに鳴っていた小さな楽音成分を際立たせたりすることで「今まで聞こえなかった音が聞こえる!」と話題になったり。



また2000年以降のデジタルリマスターで顕著になる音圧競争の影響はCDだけでなく再発レコードの音作りにも及んで80年代以前のレコードの音とは上述『理念』の面で全く違うものになっています。




※ 音圧競争(ラウドネス・ウォー)=音圧が高いほど良い音だという風潮からリミッターやコンプレッサーの過剰使用等によりダイナミックレンジを圧縮した("海苔波形" 化)音作りが増加している。迫力・鮮烈さは出るが繊細さや表現力が損なわれるという指摘も多い。





もちろん、こういう傾向の音が気持ちよくて素晴らしいと思う方は多いでしょう。(=だからそういう製品が増えている)







ただ私はこのように製造された近年のレコードを聴いて特に中域(人の声、ピアノ、アコースティックギター、ヴァイオリン、サックス等)の『倍音』成分の情報損失が大きいと感じることが多いでのです。





※ とある録音に詳しい知人によると、あらゆる機械には能力の限界があるもので、再生時にレコード針が1cm進む間にピックアップできる情報量に性能差・限界があるようにどんなに優れたカッティング・ヘッドにも1cmの間に記録できる情報の量には限りがある。
カッティングヘッドが進歩しより広い帯域にカット可能になれば製作側は最高域や最低域まで刻んでみたくなるもの。そうして高域や低域に多くの情報量を割くと相対的に中域に費やす情報量が減るのだそうです。
人間の耳は人の声など自然界にもっとも多様に存在する中域(の倍音成分)に最も敏感にできていて中域のわずかな音質の劣化で感動の度合いが大きく減ずるものだと私は思っています。ワイドレンジ化にはデメリットもあるということです。











ここに1冊の本があります。




中村明一氏著『倍音』(春秋社 2010年)




音とはなにか、人が音楽を感じるとはどういうことか大変参考になる本です。私にとっては少し難しい本ですが線を引いては何度も読み返しました。レコードがお好きな方ならぜひ一度手に取られると良い本だと思います。












➽ さて、だいぶ話はそれましたが国内盤の2枚。





ビクターSMJX規格盤は1969年〜72年頃の間に短期間発売された規格番号でいずれも素晴らしい音質です。(特に71年頃までの見開きジャケットの盤。会社が力を入れているのはジャケットの豪華さにも反映されるものです。)




お客様にはSMJXは見つけたら即買いだよとよく言っています。このサキコロやクワイエットケニーなど帯が無ければすごく安く売っていることもあるからです。





店頭・手元にあったSMJX規格盤






特に世界中のコレクターが追い求めるこれらのSMJXの和ジャズ名盤は、その音質も高く評価されてのことです。




参考画像  入荷品ではありません


山下洋輔・沖至 +笠井紀美子
『トリオ・バイ・トリオ+1』
(ビクター SMJX-10102)1970年
👉当店ブログ『トリオ・バイ・トリオ+1』(2021年7月2日)

ジョー・ヘンダーソン『ヘンダーソンズ・ハビリメント』
(ビクター SMJX-10123)1971年

山下洋輔『ミナのセカンドテーマ』
(ビクター SMJX-10075)1969年

宮沢昭『いわな』
(ビクター SMJX-10068)1969年







➽  サキコロSMJX盤はもちろん米オリジナル盤とは別カッティングです。




米国から送られてきたマスターテープ(の子か孫コピー)から日本のビクター所属のカッティング技師がカットしたものです。技師の名前は見当たりません。




上の宮沢昭『いわな』を手掛けた神成芳彦氏(スリー・ブラインド・マイスで名高い)あるいはその周辺人脈の仕事の可能性が感じられる音です。






それからこちらもジャケットに記載はありませんが使われたカッティング機器は西独ノイマン社製。おそらくLV60(真空管カッティングアンプ)、VMS66(真空管カッティングレース)にSX68カッティングヘッドで切られた音だと感じます。(これらの機器でカットされたと記録がある盤と音質が近い。なお68とか66は年式を示す。)






ふくよかで芳醇、色気と深みに富んだ中域の倍音が実に魅力的です。





対してシンバルなど最高域は現代アナログレコードのほどの煌めきや伸びはなく、ウッドベースの低域も存在感は希薄です。上述したとおり相対的にあちらを立てればこちらが立たずというところでしょうか。





SX68は導入当初オーディオ評論家五味康祐氏によって良くないとされたことが独り歩きしている感がありますが私は全くそう思いません。五味氏の好み(やオーディオ特性に秀でた音)ではなかったのだと思います。







ノイマン VMS66カッティングレース(真空管式)





US盤のRVG刻印盤とはバランスは異なりますが、これはこれで素晴らしい音です。




この時期の和ジャズの名録音に通じる香気、色気みたいなものが感じられます。




RVG刻印盤よりもこちらが好みだという方がいても不思議ではないと思います。

(というか私自身両方手放せない。)





※ 日本でこのSX68+VMS66真空管システムが現役で稼働していた時期は数年ほどで私が個人的に大好きな音色です。VMS70(トランジスタ)が導入されると音色は変わり、さらに広帯域にカットできるSX74ヘッドが登場する70年代後半は音の傾向が大きく変わっていきます。




※ SX68はテイチクとソニーの2社だけが使用した云々という誤った記事をネット上でしばしば目にしますが、実際には日本フォノグラム、ビクター、キング(→ キング社の機材)など多くのレコード会社が導入していました。(70年代には日本の大手各レコード会社はノイマン・ウエストレックスの両方を所有し適材適所、音源と制作意図によって使い分けていたようです。なおソニーのSX68シリーズは自社製トランジスタアンプでカットしていると明記されていて音色が異なっています。)



1969年ビクタースタジオ完成記念冊子より
ノイマンSX68、ウエストレックス3Dを両用しているとある




カッティング機材が明記してあるレコードの例
山本剛『ブルース・トゥ・イースト』(日本フォノグラム 1978年)







なお、68年とか74年とかそんなに古い機器で良い音がなるのか? と思われる方もみえるかと思いますが、SX74は現在でも世界のトップレベルのカッティング技師が使用している現役のカッティング・ヘッドです。




(『Stereo Sound』最新刊2023年冬号でも、イギリスのアビーロードスタジオのカッティング技師マイルズ・ショーウェル氏がSX74ヘッドとVMS80カッティングレースをバッチリ調整して愛用しているとの記事があります。東洋化成さんはVMS70とVMS80が現役。)





こと音響機器に関しては機械は新しいほど良いとは限りません。ヴィンテージのJBL、アルテック、マッキントッシュ、マランツがいまだに麗しい音を奏で根強いファンを持つように。










➽ 最後に同じビクターのSMJ規格盤。





1970年代はカッティング機器についてはほぼトランジスタ時代です。





当然にレンジは広がっていますが、米盤RVG刻印盤が見せた「○○あるべきはしっかり○○」が、いくつかの要素で「○○あるべきが△△」と何か足りていない感じがします。





ただし、あくまでもそれが目立つのは「いくつかの要素」であって総体としてはやはり音楽として大きく劣っているわけではないと思います。





それは私たちが音楽を聴くときは「要素ごとに分析しながら聴いているわけではない」ということから来ていると思います。







音楽総体として自分が気持ちよければよい。


そして、感動できるかどうかがポイント。







オーディオ的な音質評論はどうしても「要素の分析」に偏りがちです。帯域ごと、各楽器の音ごとのように。専門的になればなるほど。





私はそういった要素ごとの分析にあまり気を奪われてはいけないと思っています。






SMJ盤も総体として十分によい音です。






確かに私の耳、私のシステムでは、オリジナル盤、金ラベル盤、SMJX盤には及んでいませんが。





ただ、これらの価格差を考えるとその差ほどの優劣があるのか?







私はレコードはこのように " 産地・産年 " による違いの中からお財布に合わせて自分の好みの盤(音)を探し出して自分なりに楽しめば良いと考えています。オリジナル盤とか初回マトでなくてもよいのです。






どこかワインの世界と似ている気がします。






高価な当たり年のヴィンテージのボルドーよりもサイゼリアのテーブルワインの方が好きだという人もたくさんいるでしょう。食事の場所・雰囲気や合わせる食べ物によって味の感じ方が変わるのも聴く部屋・オーディオ装置によって聴こえ方が違うよう。











あっ、私ワインはあまり飲みませんが(笑)








※ サキコロの国内初回盤は1959年のトップランクRANK-5004盤です。音量が小さく低くこもった音で「トップランク盤はあかんよ」とか「ペラジャケは音が悪い」とか全体を代表するかのように言われる発端となった盤です。これが特殊であって他のトップランクやペラジャケ(1960年代の日本盤の薄手ジャケット)が音が悪いと言うことではありません。








※ 記事中の音・音質に関する記述は筆者の印象・主観に基づくものです。個人差や再生環境・再生機器によって異なるものですのでご理解願います。







【使用機器の記載があるレコードの一例】
田畑貞一『Drumming Beat Pops』
(テイチク UPS-1185-J)










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